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事業に関するQ&A


 霊長類を用いた医学・生命科学研究について



     ⇒ サルでなくてはできない研究とはどんなものですか


     ⇒ サルを用いてどのように研究をしているのですか


     ⇒ 研究の成果はどのような形で役に立つのですか


     ⇒ 研究用ニホンザルの飼育下繁殖がなぜ必要なのですか



サルでなくてはできない研究とはどんなものですか

 サルは、世界中で医学・生命科学研究に用いられています。それは、人に最も近縁で、共通する生理機能を数多く有しており、優れた研究モデルとなるからです。
 とくにサルの貢献が期待されている研究には以下のようなものがあります。

(1)高次脳機能の研究

 学習、記憶や手指の器用な動きのコントロールなどといった高次脳機能は人間・サルなど霊長類で特に大きく発達を遂げた機能です。

 高齢化に伴い社会の関心を集めている「認知症」の問題、また、交通事故などの後遺症で起きる「高次脳機能障害」は患者さん自身にも、またご家族にとっても何が起きたのか、どう対処すればよいかわからないため、近年大きな社会問題となりつつあります。また「自閉症」「学習障害」「注意欠陥多動性障害」などの発達障害もその病因の解明が急がれています。さらに、脳卒中や脊髄損傷後の機能回復、リハビリテーションも重大な課題です。

 このような課題のため、脳神経の複雑な機能を研究により深く理解し、臨床での基礎治療に役立てていくことが期待されています。

 しかし、脳のどの部位がどのような機能を担っているかといった基本的な問題をいきなり人間で調べることはできません。そのために人間に近い脳神経機能を有しているサルを研究モデルとした基礎研究が進められ、成果を上げてきました。

 脳機能の研究には、いくつかの方法があります。たとえば、全身麻酔をかけ、痛みが全く知覚できない状態で神経細胞の活動を記録する、または標本を採取するような研究があります。しかしその他に、高次脳機能研究になくてはならない方法として、サルが目を覚ましている状態でとる行動と神経細胞の活動の関連を調べる研究があります。

 サルが覚醒した状態での研究では、サルが自発的に目的の行動をとってくれる必要があります。そのために研究者は長い期間をかけて少しずつサルを研究室の環境に慣らし、ストレスを感じずに高いモチベーションをもって研究に協力してくれるよう、動物福祉の面を考慮するなどして、「良い関係」を築かなくてはいけません。たとえば、一人の研究者が、2-3頭のサルと短くても数ヶ月、長い場合は2-3年以上にわたって、研究のパートナーとして毎日接し、まさに「心を通わせる」関係を築いた上で研究を続けています。

 このようなサルが途中で病気になるようなことがあっては大変です。研究者はこのような貴重な研究のパートナーに日々、愛情と細心の注意をもって接しています。

(2)感染症・免疫の研究

 ポリオ(小児麻痺)ウイルスワクチン関連の研究、新型肺炎SARS原因ウイルスの特定など、サルを用いた研究はさまざまな感染症の予防、治療に貢献してきました。世界中の注目を集める高病原性鳥インフルエンザがヒト間で感染するようになる過程で起こる変異を解明し、予防や治療に役立てる研究でもサルたちの活躍は期待されています。このような感染症を「克服」するためには、感染から発症に至る詳細なメカニズム、病態、免疫機能などの研究が行なわれなくてはいけません。

 しかし、ヒトの患者さんでこのような研究を行うことは許されません。ヒト以外ではサルにしか感染・発症が起こらない病原体については、サルを用いて研究が行われることになります。

 とくにウイルスは特定の種でしか感染、発症が起こらないものが多く、たとえばC型肝炎、エイズウイルス(HIV)などは、ヒト以外では類人猿にしか感染せず、しかも感染しても発症には至らないのです。そのような感染症に対して専門家たちは、ヒトの患者さんから得られた情報と、ヒトに近いサルで感染・発症する近縁ウイルスの研究から得た知見を比較することで、予防や治療法の手がかりをつかもうとしています。

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サルを用いてどのように研究をしているのですか

 様々な高次脳機能を調べるためには、オペラント条件付けという手法で、報酬と引き換えに行動課題を達成するようにサルを訓練します。サルがそのような課題を遂行している際の脳の活動を記録したり、薬物を脳内の特定の場所に注入して機能を阻害した際の影響を調べたりするのです。

 脳に電極を刺入することは一見痛そうにみえるかもしれませんが、脳の実質には痛みの受容器がありません。きちんと術後管理を受けていれば、実際に慢性的に電極をつけている動物がそれによる痛みを感じることはないのです。

 実際にサルを用いる研究の計画を立てる研究者は、サルの飼育環境や取り扱い、研究方法などについてさまざまな法規制、ガイドラインを遵守し、3Rに配慮しているかを審査され、全て所属する研究機関の委員会の承認を受けた上で研究を実施しています。(詳しくは「日本の動物実験規制はどうなっているのですか」をご覧ください)

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研究の成果はどのような形で役に立つのですか

 エイズやインフルエンザなどの感染症研究の成果が、予防のためのワクチンや治療薬の開発に役立てられていることはいうまでもありません。それでは、脳機能の研究はどのような形で役立っているのでしょうか。

 第一に、人間の脳の機能を詳しく知ることに役立っています。人間の脳はとても複雑で、そのメカニズムを直接調べることは大変困難です。どの部位がどのような機能を持っているかということは、脳に障害のある患者さんの症状と障害部位を比べることを沢山の患者さんで繰り返すことによって調べられてきました。最近では機能的MRIなどの非侵襲的活動記録方法(体に傷をつけない方法)で、ある程度は人間の脳の活動を見ることができるようになってきました。それでも、それぞれの脳の部位がどこと、どのようにつながり、どのようにネットワークとして機能しているかは、このような方法ではまだ詳しく知ることができません。現在のところ、人間の脳機能は、そのほとんどがサルなどの動物で明らかにされたことを基礎として解明されつつあります。

 第二に、実際の臨床応用についてです。最近話題になっているのが、「機能的脳外科手術」です。

 脳卒中の後遺症やパーキンソン病などで起きる不随意運動(自分では意図していないのに、体の一部が震え、動いてしまう症状)は患者さんにとって悩みの種です。起きている間に始終起きてしまう不随意運動は患者さんの生活の質(quality of life=QOL)を著しく低下させます。このような患者さんの大脳基底核や視床などの部位に電極を慢性的に刺入して電気刺激を加え、脳の活動を調節してあげることで不随意運動を押さえ、 QOLを劇的に改善できるという治療法が保険適用されるようになり、現在盛んに行なわれるようになっています。また、末期癌の患者さんの激しい痛みを抑制するために、患者さんが自分で電気刺激をコントロールして痛みを押さえるようにできる治療法も盛んに行なわれています。

 このような「機能的脳外科手術」はサルを用いた脳神経生理学研究の手法を人間に応用したものであり、電極を正しい位置に置くためには電極から記録を行い、その部位の神経細胞がどのような活動をしているかを正しく知らなくてはいけません。人間の脳のどこの細胞がどのような活動を示すかは最初から人間で調べることはできないので、これらの知識は全てサルで行なわれた研究の成果に基づいています。

 第三に近い将来、達成されようとしている新たな可能性について述べます。現在、脳科学での発見を活用し、よりよい福祉機器の開発が進められています。たとえば、脳の神経細胞の活動を読み取り、その信号で機械を制御する技術で、患者さんの意思どおりに操作できる義肢を開発しようという研究が成果を挙げてきています。

 また、脳卒中や脳幹部が損傷した患者さん、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんは、意識は保たれているのに全身のほとんどの筋肉を動かすことが出来ないため、文字を書いたり、話をしたりして自分の意思を表現する機能が失われています。そこで、患者さんの意識(例えば「yes」か「no」か)を脳波から読み取ることで外部とのコミュニケーションを可能にしようという研究も行われています。

 このような技術開発を支える基礎研究は、患者さん方がハンディキャップを克服する手助けとなる大切な研究です。

 脳のどのような部位の活動をどのようなプログラムで読み取り、このような福祉機器の制御を行なえばよいか、ということはサルを用いた脳生理学の研究を基盤として進められるものです。動物実験の成果で一番恩恵を受けるのはこのようなさまざまな障害に悩まされている数多くの患者さんたちです。このような研究がストップしてしまうことはこのような患者さんたちの将来を奪うことになってしまうのです。

 サルを用いた日本の脳研究は国際的に見ても高い水準にあり、日本のラボから世界をリードする数多くの画期的な成果が出されています。


  他にもサル類が活躍している最先端研究、プロジェクトユーザーの研究成果などのニュースをこちら(Facebookページ)から発信しています。

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研究用ニホンザルの飼育下繁殖がなぜ必要なのですか

 ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」発足時に、関係者は望ましい研究用ニホンザルの供給体制のあり方について討議を重ね、研究用ニホンザルの飼育下繁殖施設を設置する計画を平成14年度から始まったナショナルバイオリソースプロジェクトに申請し、採択されました(初期のプロジェクトの活動をまとめた年表はこちらからご覧ください)。

 それまでは一部野生由来のサルも使用されていましたが、野生個体を直接研究に使用することは、病原体リスク管理が困難になる、個体に関する重要な情報(家系、正確な年齢、成育過程など)がわからない、などの点で研究用の動物モデルとしては問題が多いと考えられるようになっています。繁殖・提供事業ではその様な面でも研究用ニホンザルのバイオリソースとしての有用性を高めるため、疾病対策、ゲノム解析、個体情報の充実など、多面的な付加価値の可能性を探っています。

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