ごあいさつ

  ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソース(動物・植物等)について収集・保存・提供を行うとともに、バイオリソースの質の向上を目指し、戦略的な整備を行うため、2002年度より文部科学省が開始したプロジェクトです。2015年度より日本医療研究開発機構の事業として実施されることとなりました。2017年現在31のプロジェクトが推進されています。

 NBRP「ニホンザル」もプロジェクト開始当初から採択され、人類の福祉の向上に貢献する医学・生命科学研究に必要なニホンザルの飼育・繁殖・提供を行ってきました。2016年度まで自然科学研究機構(生理学研究所)を代表機関として実施してきました。当初から京都大学(霊長類研究所)も分担機関(最初は協力機関)として参画してきました。2017年度から第4期(~2021年度)がスタートするのを機に、すでに繁殖事業や提供事業は京都大学が中心に実施してきたこともあり、第4期から代表機関を京都大学にして分担機関を自然科学研究機構にして、役割を変えて推進することとしました。


 本プロジェクトは、Bウィルス・サルレトロウイルス・赤痢菌・サルモネラ菌・結核菌などの検査で陽性反応が出ないことを確認した、人獣共通感染症等に関して安全で安心できる研究用ニホンザルを広く生命科学研究に役立てるために安定して提供することを目的としています。それだけでなく、研究用ニホンザルに適切な飼育環境や実験手技などを普及すること、研究用に飼育繁殖したニホンザルを提供することによって野生のニホンザルの実験使用をなくすこと、広く一般の方に研究活動を理解してもらうことも大きな目的です。

 目的を達成するために次のような活動を行なってきました。適正な動物実験の普及のため独自のガイドラインを作成し、ガイドラインや関連する法律等に基づいて各申請を厳格に審査してきました。審査を徹底することで、各研究機関の機関内規程の改正、3Rを遵守した計画の立案、適正ケージサイズの普及などに大きく貢献しています。サルの扱いや法律に関する講習会を毎年複数回行い、受講者にはライセンスを発行しています。ライセンス取得者だけが提供されたニホンザルを扱えます。ニホンザルの取り扱い実習も行っています。安全安心のためにさまざまな検査系を立ち上げ、検査を実施してきました。こうした活動を通じてニホンザルを用いた研究の質の向上と飼育管理の改善にも大きく貢献しています。


 本事業の成果は、脳研究を中心として、これまでにNatureやScienceなどの一流雑誌を含む英文学術論文(150報以上)や和文学術論文(30報以上)として出版されました。脳科学研究の成果の多くは、カニクイザルでは学習困難な高度で複雑な認知課題を訓練することにより初めて得られた成果で、ニホンザルならではの成果です。また,治療法の開発を目指した研究成果が医療機器として認可され、心肺停止患者の生存率の向上に貢献した例もあります。研究成果についてはNBRP 公開論文サイトなどでも公開していますので、是非参照していただきたい。


 今後も広く生命科学研究で「ニホンザルでなければならない研究成果」が多く世に出て行くと期待するとともに、多くの方に本プロジェクトの意義をご理解いただけるように頑張っていきます。


平成29年5月 第4期開始によせて
ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」
代表機関(京都大学)課題管理者 中村克樹
(京都大学霊長類研究所 教授)