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事業に関するQ&A


 動物実験を巡る国際的な状況、規制の動向



     ⇒ 日本の動物実験規制はどうなっているのですか


     ⇒ 動物実験はもう必要ないのではないですか


     ⇒ 欧米では霊長類の実験は禁止になったと聞きましたが



日本の動物実験規制はどうなっているのですか

 研究に使用される動物たちの扱いについては、動物が受ける苦痛を最小限にするための様々なガイドライン(指針)が作成されています。国際的に広く参考にされているガイドラインは、米国科学アカデミーの下部組織ILAR(実験動物研究協会)が編集した「Guidelines for the Care and Use of Laboratory Animals」です。その中には研究室での動物の取り扱い方、飼育ケージの広さ、飼育環境など、様々な条件が書かれています。

 動物実験を実施する研究者は、その研究が人間に(また動物にも)もたらす恩恵の大きさ(ベネフィット)と動物が実験で被る苦痛の程度(コスト)を正しく評価した上で、実施すべきかどうか決定することを求められます。さらに、信頼できる実験結果を得るためにはその実験方法が必要であり、他の方法で置き換えられないこと(Replacement)、使用する動物数が信頼できる結果を得るため必要な範囲で削減されていること(Reduction)、研究の目的を損なわない範囲で苦痛を軽減する措置を施すこと(Refinement)を慎重に検討する義務を負っています。これは「3Rの原則」と呼ばれます。

 日本では「動物の愛護及び管理に関する法律」(環境省)及びその規定に基づいて定められている「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(環境省)で、実験動物について安全かつ動物福祉に配慮した取り扱いをすることが規定されています(詳しくは、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」をご覧ください)。さらに各研究機関を管轄する省庁から、動物実験を行うにあたり、科学的合理性と3Rの原則を踏まえ、動物実験を適正に実施する体制を整備するよう定めた「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省)」、「厚生労働省の所管する実施機関における 動物実験等の実施に関する基本指針(厚生労働省)」、などが告示されており、各研究機関はそれらに基づいてそれぞれに機関内規定を策定しています。たとえば京都大学ヒト行動進化研究センターでは「サル類の飼育管理と使用に関する指針」を制定しています。研究機関以外にも日本神経科学学会の「神経科学分野における霊長類を対象とする実験ガイドライン」のような指針を定めている学術団体もありますし、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」運営委員会も「ニホンザルの飼育管理及び使用に関する指針」、を発行し、提供を受ける研究者に遵守を求めています。

 大学、研究所などでは、実際に動物を用いる研究を実施する前に、機関ごとに設置されている動物実験委員会などにおいて、申請された研究が倫理的に認められるかどうか、上述のガイドラインに準拠して審査が行なわれます。この審査で機関の長の承認を受けなければ研究を実施することは認められませんし、成果を学術誌に論文として投稿する際には、所属機関のガイドラインを遵守したこと、委員会による承認を受けたことなどを明記することが求められます。きちんとしたガイドラインのある機関で審査・承認を受け実施された研究成果でなければ受け付けてもらえないのです。このように、研究現場の動物福祉は関係者の自主管理によって日々推進されています。

 それでも、上述のガイドライン、手続きに従って研究を行ってさえいれば、動物が受ける苦痛はないと保証されるわけではありません。私たち研究者には常に研究のパートナーである動物が不要な苦痛やストレスを感じていないかを見定める注意深さ、観察力が必要とされていることを忘れてはならないと考えています。また、しばしば批判の対象となる審査過程の透明性、研究の透明性についても、真剣に議論し、将来の方向性を探っています。

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動物実験はもう必要ないのではないですか

 過去において、その効果や安全性が動物実験によって充分に確認されないうちに臨床現場で使用された薬剤によって、サリドマイド禍(1957年発売~1962年発売中止)のような悲惨な薬害が数多く起こりました。

 そのような過ちを繰り返さないために発せられたのが世界医師会の「ヘルシンキ宣言(DECLARATION OF HELSINKI)」(1964年採択)です。2013年開催の世界医師会フォルタレザ総会で採択された最新版でも「人間を対象とする医学研究は、科学的文献の十分な知識、その他関連する情報源および適切な研究室での実験ならびに必要に応じた動物実験に基づき、一般に認知された科学的諸原則に従わなければならない。研究に使用される動物の福祉は尊重されなければならない。」と謳われており、医学研究における基本的な考え方となっています。(世界医師会およびヘルシンキ宣言については、日本医師会のサイトをご覧ください)

 技術の発達に伴い、生体でなく培養細胞、生体機能チップ(Organ-on-a-Chip)、コンピュータシミュレーションなどで代替できる実験も徐々に増えてきてはいますが、現在の代替法には限界があります。とくに化学物質が生体内でどのように分解されまた排出されるか、また微量でも長期間にわたって繰り返し取り込まれ蓄積された場合、ガンやアレルギーの原因となるおそれはないか、生殖機能などに影響は出ることはないか、などの解析には、現在でも生きた動物を用いる以外に信頼できる方法がないのです。

 最近では、化粧品、医薬品など多様な分野で急速に応用が広がっているナノマテリアルについても、安全性評価の必要性が指摘され、国際的な安全基準作りが急がれていますが、動物実験を禁止してしまえば、そのような調査についても大きく立ち後れることになるでしょう。

 また現在、ゲノム医科学、ES細胞・iPS細胞を用いた再生医療など、最新の基礎研究成果を応用して、新しい画期的な治療法、予防法が開発されようとしています。その過程では、完成を待ち望んでいる人間の患者さんに用いられる前に、効果や安全性をモデルとなる動物で慎重に確かめる必要があります。

 このような研究の流れをトランスレーショナル・リサーチと呼びますが、そのような段階での動物実験にまで性急に全廃を推し進め、充分な安全性評価がされないまま新しい医薬品、治療法などが普及するようなことになれば、サリドマイドのような悲劇を再来させるおそれがあります。

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欧米で霊長類の実験が禁止になったと聞きましたが

 2010年9月欧州議会で採択されたEU動物実験指令改定版において、類人猿を実験に用いることが原則禁止となったと報じられました。また米国NIHもIOM(全米科学アカデミー医学研究所)のアセスメントに基づき、2011年12月に類人猿を侵襲的実験に使用する新規研究計画に対する助成を差し控える声明を発表しました。

 しかし、これらの規定は、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなどの類人猿に限定されたことであり、ニホンザルと近縁のマカクザルであるアカゲザル、カニクイザル、さらにヒヒ、リスザル、マーモセットなどのサル類は欧米でも「サルでしかできない研究」に限って現在も用いられています。

 他の動物種、たとえばマウス、ラットなどのげっ歯類でも十分に信頼できる結果の得られる研究分野は増えていますし、現在圧倒的多数の動物実験はげっ歯類を用いて行われています。研究者としてもサルを扱うのは大変に時間と手間のかかることで、もし培養細胞やげっ歯類で研究の目的が達成できるのであれば当然そのようにするはずです。それでも敢えてサルを用いているということは、やはりサルでなくてはできない研究がある、ということなのです。

 医学・生命科学研究の中には、高次脳機能の研究や感染症・免疫の研究のように、げっ歯類ではヒトとの違いが大きすぎて、研究の目的を達成できないものがあります。そのような分野でマカクザルは貴重な研究用モデルとしてこれからも貢献を期待されているのです。

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